これもリアルで迫力のある映画。
主人公の、己の欲のみを軸とした暴力的な生涯。それに巻きこまれ、翻弄され、あるいは捨てられ、葬られてゆく人々の、救いようのないような凄惨な人間模様。
眼を背けたくなるような光景でもリアルと感じたのは、ここまでひどくは無くてもよく似た人々を私が知っていると感じたからか。
「えげつない」という形容詞がこれほどしっくり来る男にはなかなかお目にかからない。
この映画をとおして崔監督が観客に伝えようとしたのは、あるいは複数の民族の眼から複眼的に見たリアルな昭和史であり、あるいは単純に、狂気と暴力に満ちた男のものがたりを媒体に、そうしなければ生き残れなかった時代を現代に投影するなにがしかのメッセージかもしれない。
全体を貫く昭和のイメージは、窓から差し込む日の光、深夜の路地の闇のいろ、ふすまの質感、そんなディテールの忠実さで見事に表現されていた。
余計なことを考えずに、偏見を持たずに観るなら面白い映画。